最近、『A KITE』の18禁版および『KITE LIBERATOR』を見た。監督はかの有名な梅津泰臣氏が務めており、なんとハリウッド化もされている。これは是非見てみたいと興味を持った。
しかし、18禁版がなかなか見つからない。サブスクに18禁版は勿論なく、近所や都内のTSUTAYAで探してもてんでダメ。「これは長い旅になりそうだ……」とか思い始めた矢先、我々が日頃お世話になっているDMMさんにレンタルがあるではないか。即ポッチってレンタル。ワイの努力……
あっけない幕引きだった、ぶらりエロアニメの旅。それでもその努力が無駄にならないほどに完成度の作品であったことは間違いない。
前置きが長くなってしまって申し訳ないが、今回はこちらのシリーズの考察を書こうと思う。
(今回は都合上、ハリウッド版は割愛させていただきます)
ネタバレを多く含みますので、未視聴の方はご注意ください。
A KITE
あらすじ
本作の主人公サワは、女子高校生にして殺し屋という表と裏の顔を持っている。彼女は赤井に両親を殺され、彼によって殺し屋として、女として育てられた。赤井もまた、鑑識と殺し屋という二つの顔を持ち合わせている。
サワはある時、同じ殺し屋であるオブリと出会う。彼女は彼とタッグを組み暗殺を遂行するが、徐々に彼らは殺し屋としてではなく異性として惹かれあっていく・・・
考察
1998年に梅津泰臣監督によって公開されたアニメ、『A KITE』。18禁のアニメーションではあるものの、現在のアニメと比べても遜色がないほどクオリティが高い。緻密な作画は、彼が原画を担当した『AKIRA』を彷彿とさせる。
サワとオブリ
暗殺者とは、常に孤独である。さらに赤井からの一方的な体目当ての愛に、思春期女子のサワは一生懸命に耐えてきた。そんな中、彼女は同業者であるオブリと出会う。
親身に会話してくれるうちに、互いに魅了される二人。オブリのヘマに無邪気に笑うサワ。二人はまるでカップルのようで、とても冷酷な殺し屋同士とは思うまい。
サワは赤井からオブリの暗殺の命を受けるも、「必ず帰ってきて、ここに」と彼を逃がす。ここで、彼女は赤井ではなくオブリと歩む道を選んだ。
しかし、悲劇は突然訪れる。オブリはとある少女に撃たれてしまった。それを知らないサワは、「もう少しでオブリ君がくるからね」と彼を待つ。
床板の軋む音の正体は分からないまま、物語は幕を閉じる。ただ、歩くには若干遅めな音や、電車で男に撃たれていても無事であった過去を考慮すれば、やはり正体は撃たれてもなおサワの元に訪れたオブリなのだろう。
サワと赤井と赤いピアス
サワは、赤いピアスをとても大切に着けていた。彼女曰く、「両親の血が入っている」という。そのピアスは赤井から贈られたものであり、サワが赤井によって処女喪失したのを、ピアスから滴り落ちる血で表現しているように、彼女のピアスは両親への愛と同時に赤井の呪縛を表している。
赤井とサワはしばしば体の関係を持つ。彼らのピロートークが妙にムーディで、彼女のセックスやまばたきが、生きていることを実感させる。赤井の腕の中ではあるが。
それでも、サワは両親の仇として赤井を虎視眈々と狙っていた。ハリウッド俳優暗殺で左耳のピアスを失くした時も、赤井は彼女の銃だけを取り、彼女のピアスには目もくれなかった。赤井にとってサワは単なる暗殺者かつ性の対象としてしか見なしていなかった。ぶっきら棒な彼の態度にサワはオブリの家へ逃げ込む。
最終的にサワは赤井を殺し、もう片方のピアスも投げ捨てたことで、両親の復讐を成し遂げ、彼の呪縛を自ら解いたことになる。
芸術的なエロチック
このアニメは18禁であり、エロ描写も多い。ただ、それはオナニーのおかずというより、もはや芸術の域に近い。
#AKITE 18禁版
— ゆるりゆるゆるツイートする (@yuruyuru_88) 2021年3月12日
あの梅津監督の作品。殺し屋としての顔を持つ女子高生サワは、理不尽な大人たちに命令されながらも懸命に生きていく。
性と暴力という彼女のアイデンティティが、この一枚の写真に集約されていると思う。
エロいというより、美しい。 pic.twitter.com/HP8OKFzv1z
#AKITE
— ゆるりゆるゆるツイートする (@yuruyuru_88) 2021年3月13日
とても同一人物とは思えないほどのギャップ、たまらないよね。
これほどのギャップを楽しめるのも、18禁ならではだと思います。 pic.twitter.com/bkB13ntHR8
前述のように処女喪失をピアスから滴り落ちる血であったり、ピストン運動をおもちゃで表現するのも斬新。梅津監督の観察力に驚嘆する。
昔のエロアニメあるあるだが、モザイクが雑すぎる! 下半身ほとんどモザイクやんけ! と思ったらSpecial Editionで修正されてたのね。そっち借りればよかった。
エロチックな描写が苦手な方は、『A KITE INTERNATIONAL VERSION』をお勧めします。セックスシーンがごっそりカットされた全年齢版です。U-NEXTやTSUTAYAにもあるので、視聴は困難ではないと思います。
KITE LIBERATOR
あらすじ
サワが失踪して数年後の世界、女子高生のモナカは、「死の天使」と称される殺し屋を生業としていた。一方で、娘の裏の顔を知らない宇宙飛行士の父が、不慮の事故に巻き込まれる。体が肥大化して怪物に成り果てた父が地上に飛来し、暗殺任務を遂行する娘と邂逅する・・・
考察
2008年に公開された『KITE LIBERATOR』は前作の数年後の世界を取り扱っているが、前作にはなかったモンスター映画感が色濃く出ている。また、全年齢向けということもあって、過激な描写はほとんどない(せいぜいパンチラとかおっぱいくらい……)。しかし、作画は前作より格段に進化している。特に、宇宙ステーションが爆発するシーンは、ガンダムと見紛うほどの作画である。この時期は00か。
共通点が相違点に
前作と本作の主な共通点、それは「親への思い」であろう。両親の血が入ったピアスを身に着けるサワ、父から贈られたブレスレットを身に着けるモナカ。双方とも親を背負って学園生活を送り、暗殺を全うする。
しかし、結末がまるで違う。サワは形見のピアスを捨てた一方で、モナカはブレスレットを手掛かりに父と再会を果たした。なぜ、ここまで真逆の結末になったのか。
この理由を知るには、モナカのバイトの先輩向井万夏がカギになる。
向井さんの正体
結論から申し上げるが、バイトの先輩向井さんの正体はサワではないだろうか。2人の殺し屋がいるカフェで一緒に働いていたり、モナカの護身術を一瞬で見抜いたり、ロケット花火を打つのに手馴れていたり……
極めつけは、花火中にモナカに発したこのセリフ。
「恋人でも家族でも、大切な人がいて大事に思うなら、自らを正さないとだめよ」
何とも意味深。そうとしか思えなくなってきた。
向井は1児のシングルマザーであり、夫はいない。詳細は不明だが、仮に向井がサワだとすれば、夫はやはりオブリの可能性が高く、前作最後の足音の正体が彼ならば、傷がもとでその後死んだのだろう。たらればの羅列はナンセンスなのは承知の上であるが、結構的を射ていると思う。上記のセリフも、彼の死によって説明がある程度つく。
モナカとサワというギャップ
では、なぜ「向井=サワ」であることが、結末の違いのカギになるのか。
向井もといサワは、両親も恋人も死んでしまった不遇な存在である。一方でモナカは変わり果てた姿ではあるものの父と再会し、刑事とデートの約束をしている。
このアニメシリーズには、「表と裏」、「ギャップ」が往々にして使われている。「女子高生と暗殺者」「女と男」「エロスと銃」のように、二つのコントラストが時に美しく、時に残酷なアニメである。
察しのいい方は、もうお気づきだろう。すなわち、「モナカとサワ」も、『KITE』という物語におけるギャップの一つではないだろうか。
本作の主人公モナカは、父親と再会し、恋人もできる。そんな彼女を、両親も恋人もいなくなったサワと対比している。モナカと向井が話しながら興じている「冬の花火」にも、どこかギャップを覚えるだろう。
多くの箇所に「表と裏」を散りばめるだけでなく、ひいては新旧主人公の運命にもギャップを生じさせることで、我々はこの作品により一層魅了されているのではないか。
正直これは「向井=サワ」という前提が間違えであれば、破綻する考察だ。だが、曲解のないものであると自負している。
モナカちゃんかわいい
とりあえず、モナカちゃんはかわいい。表はドジっ子だけど裏は冷酷というモナカちゃんの性格のギャップが、なんともたまらない。訛ってるのもかわいい。僕も抹茶好きだよ。一緒に食べよ。殺してもいいから。🤗
最後に
執筆中に、下記の記事を偶然見つけた。
監督自らが言及するのは面白い。『KITE』シリーズを視聴した方は、この記事も必読である。
今ではすっかり馴染んだアニメという文化。けれども、18禁にスポットが当たることはなかなかない。そのため、私は今回『KITE』シリーズを取り上げ、裾野を広げてみようと思っている。
梅津泰臣監督の18禁アニメ作品はもう一つ、『MEZZO FORTE』がある。今度はこの作品をフィーチャーしたいなあ…
(他にも『cool devices series episode07』もあったらしいです。全然知らんかった…)
それでは。