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気ままに生きます

『果てしなきスカーレット』、これは……

 

 何かに駆られるように、『果てしなきスカーレット』をレイトショーで観てきました。自分の住む町唯一の映画館だからかもしれませんが、平日のレイトショーの割にはそこそこの客入りで、何組かの若いカップルが仲睦まじそうにポップコーンをつついていました。

 

 ただ、二人きりの夜に引き込む前戯として観るには、あまりにも酷な映画です。三文ロマンス映画とは訳が違う、おぞましさと難解さが押し寄せてきて、せっかくの雰囲気を完膚なきまでにぶち壊すでしょう。この映画は、さしずめパンドラの箱なのです。

 

  ネタバレ注意です 

 

1.良い所

映像芸術

 では、映画料金を無駄にしたかと問われれば、自分はそうは思いません!

 

 天下一品の映像芸術を観ただけでも、十二分に価値がありました。特に雷鳴轟くシーンは、映画館の音響技術も相俟って圧巻でした。見晴るかす広大な大地も、モンゴルかどこかの現実の風景かと見紛うほどに美しく、大地の冷たい空気がスクリーンを通じて自分の肺に入ってくるかのようでした。

 

 また、芦田愛菜さんも個人的には良かったです。マルマルモリモリをいじらしく踊っていた愛菜ちゃんが、こんな大人の女性の役をするようになったのか、と自分の中にないはずの母性が働いたのが最初の感想でした。

 

2.良い所はそれくらいで…

 映像芸術は確かに鳥肌ものなのですが、そのシーンをストーリーに盛り込む必要性を見出せません。

 

 ドラゴン、夢、東京、民衆の反逆、噴火……。鮮烈なシーンは数あれど、それぞれに意義はなく、伏線だと思ってもそのまま通り過ぎてしまいます。そのためにストーリーも単調で、そこまでの刺激がありません。

 

 なんというか、「見た目だけが豪華なコース料理」を食べているようでした。

 

 料理の盛付や装飾は一級品なので、それだけに期待値はぐんと高まります。しかし、フランス料理を食べていたら、スープに味噌汁、メインディッシュにハンバーガーといったように、それぞれの料理に統一性がまるでないため脳が置いてけぼりです。さらにどれも薄味ときたものだから、結局あまり印象に残りません。

 

 その薄味を誤魔化すためなのか、何度も何度も主人公を叫ばせて、愛菜さんの喉を潰しにかかります。どのシーンでも基本的に叫びまくっているので、正直くどく感じます。いわば、せっかくの料理に焼き肉のたれをぶっかけてるようなものです。

 

心理描写

 前作『竜とそばかすの姫』にもあてはまるのですが、細田氏は「心理描写」の詰めが甘いと感じています。心情の変化や背景でしっかり裏付けされていないために、登場人物が唐突に行動を起こしたと感じてしまうことが多々あります。

 

 以下ネタバレ注意! 

 

 

 

 序盤のスカーレットが聖と出会うシーン、彼女の旅になぜか聖が随行するのですが、その理由が「お前が人の命を奪わないように」と、よく分からないことをほざきます。「命を救った恩人だから」だとしても、スカーレットの戦闘に巻き込まれただけであり、何より彼は看護師として、「要請に向かわなければならない」という使命があったはずなのに……。

 

 また聖は、たとえ敵であっても、命を奪うことを頑なに拒否していたのに、「自分が死んだ」と自認した途端、敵を弓矢で打ち抜き、刀で刺し違えるのです。前世の最期を思い出して、「自分の命を賭してでも大切なものを守る」と決めたことは理解できるのですが、「大切なものを守るために、相手の命を奪う」となぜ決心できたのでしょうか。彼にとっての一大決心だと思うのですが……。

 

結末

 本作は、おそらくシェイクスピアの『ハムレット』をオマージュして作られています。

(名前や復讐に苦悩する姿、死者の国もおそらく「to be or not to be, that is the question」の世界観だと思います。)

 

 しかし、本作は『ハムレット』とは異なる結末で結んでいます。ただ、その結末がどうも"お利口さん"というか、絵本のような終わり方というか……、お利口さんエンドが悪いわけではないのですが、とにかく荒廃した世紀末の世界観にあまりにも似つかないのです。

 

 世界観や戦闘描写から人を選ぶ作品なのは明白なのに、結末はまさかの子ども向け。淡白な味のコース料理を頑張って食べ進めたのに、最後に出てきたのがただの"水"。もはや乾いた笑いしか出ませんでした。

 

 奇妙奇天烈な精神世界で自問自答に苦悶する点は今敏監督作品のようではありますが、その結論が純粋無垢な絵空事でも、子どもに見せるにはあまりにも難解すぎる。日レなどからの外圧もあったのかもしれませんが、虻蜂取らずの作品であることが低評価の要因の一つだと推察されます。

 

まとめ

 劇場の明かりがふんわりと灯ると、男が女を引っ張ってそそくさと外に出ていくのが見えました。二人の表情は曇り、少しも口を開くことさえせずに、まるで死者の国から逃げるように。きっと今夜のピロートークはこの映画の愚痴で溢れ返るのかなと思うと、細田監督も罪な男だ。そして自分も、人前では決してするまいと堪えていた溜め息を、車の中で一気に放出したのです。

 

 確かに決して面白いとは言い難い作品でしたが、『未来のミライ』や『竜とそばかすの姫』よりは好きです。(個人的に『未来のミライ』を上回る駄作はないと思う……)

 細田守監督は新海誠監督とともに、現代日本アニメ映画の双璧だと考えていたのですが……。シリーズもののアニメ映画が大盛況の中、単発作品は鳴りを潜めている気がするので、頑張ってほしいと思っています。

 

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