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【前編】メディアはアニメをどう評価したか? 〜アニメを利用した既存メディア〜

はじめに

 日本のアニメーションの向上は、めざましいものがある。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』、『SPY×FAMILY』など、ワンクール形式のテレビアニメがここ数年で老若男女に愛されるようになった。また、大友克洋作品やジブリ作品などの日本アニメ映画は、ジャパニメーションとして国外でも高く評価されるようになった。

 もちろん、現在のアニメーションを評価することも重要である。ただ、過去のアニメーション、すなわちアニメーションの揺籃期について焦点が当たることは多くない。そこで今回、オールドメディアは、どのようにニューメディアを評したのかを考察したい。なお、オールドメディアは『朝日新聞』および『読売新聞』を利用する。

 なお、引用文における色・線は、すべて私自身の判断で着色したものである。

 

👇 後編はこちら 👇

yururiyuruyuru.hatenablog.jp

 

 

アニメーション作品の個別的研究

1.コマーシャルの場合

1959年から放送された「ヤン坊マー坊天気予報
出典:https://www.yanmar.com/jp/about/ymedia/article/yanbohmarboh.html

 新聞が絶対的メディアを築いていた時代、紙面を割いて視覚的な広告を掲載し、圧倒的な広告費用を生み出した1948年日本の広告費用の割合は、新聞広告が81.4%と、雑誌広告・屋外広告との間に歴然とした差がある*1

 ただ、50年代メディアは多様化する。1951年に民間ラジオ放送が解禁されると、聴覚的な広告に期待されたことで、例えばラジオDJが意図的に商品名を挿入するなど、インフォマーシャルやステルスマーケティングが可能になった*2

 1953年、テレビの民間放送が開始する。テレビ広告は、新聞広告の視覚的イメージラジオ広告の聴覚的イメージに加え、「動き」という新たな要素も必要不可欠になってくるこれを契機に、アニメーションはコマーシャルに多く使用され出した。1959年から長年愛された「ヤン坊マ―坊天気予報」はあまりにも有名である。アニメーション作家の久里洋二氏は、テレビ広告におけるアニメーションについて、『朝日新聞』で以下のように述べている。

 

 アニメーションが盛んになって来たのは、民間テレビでコマーシャルが出現して以来のことといわれています。私もそうだと思っています。

(中略)

 ところが、近ごろのテレビコマーシャルを見ていると、非常に短い時間、5秒から15秒のコマーシャルが多くなってきて、映像に強烈な印象を与える方法しか考えないようになって来ました。これは悲しいことです。

(中略)

 コマーシャルで強い印象をつけるためには強烈な、アッといわせる方法でアニメーションを作ります。A図のような技法でやることもあります。いうなれば残像を利用したアニメーションです。(中略)落着いたコマーシャルが出来るはずがありません。もっとアニメーションを大切に考えて制作したいものです。

 

「テレビのコマーシャル アニメーションの世界」、『朝日新聞』、1965年9月12日付朝刊、p21。

 

A図。実際の図を参考に書き写したもの。
「イナズマの光るシーンでその間に黒や白の何も書いてないものを入れると、
強烈なイナズマに見える。このような方法で商品を入れると印象が強烈になる
人間と商品をたがいちがいにすると残像で人間と商品が重なって見える」


 久里氏は、テレビコマーシャルがアニメーション隆盛の一因であると考察している一方、限られた時間内で強烈なインパクトを残すことしか考えないアニメーションの現状を「悲しいこと」としている。

 私の書き写したA図を見ると(下手くそすぎてごめんなさい…🙇)、白黒のコマや商品のコマを瞬間的に交互に挿入することで、画面が点滅しているように見せることが可能だ。例えば以下のコマーシャルを見てほしい。

 


www.youtube.com

 

 このcmは、1961年に放映された明治製菓「マーブルチョコレート」である。途中黒のコマと商品をバチバチと点滅させて、視聴者がテレビや商品に注視するよう意図していることが分かる。さらに本商品は子どもを対象にしていることから、点滅の効果はなおのことであったろう。

 テレビコマーシャルにおいて「点滅手法」が跋扈した原因として、「①短時間で制作できる。費用対効果が大きい。ライバル企業への便乗(一種の集団心理)」などが考えられる。特にアニメーションは労力・時間・費用が莫大にかかるため、「点滅手法」は制作会社にとっても確実に利益を獲得できる機会であったに違いない。久里氏は、これに対して「もっとアニメーションを大切に考えて制作したいものです」と警鐘を鳴らしている。

 

2.『おかあさんといっしょ』の場合

 次に、現在でも放映されている『おかあさんといっしょ』について考察したい。

 『おかあさんといっしょ』は1959年に放送開始され、翌年『ブーフーウー』などのぬいぐるみ人形劇を中心に幼児向け番組として展開した*3

 1961年、歌と体操で構成された番組『うたのえほん』が開始した。1966年に『おかあさんといっしょ』と『うたのえほん』が統一、歌・体操・人形劇から成る『おかあさんといっしょ』が放送開始し、現在まで長く愛される番組に成長していった*4

 そんな『おかあさんといっしょ』においても、アニメーションが使用された。1970年3月3日『朝日新聞』朝刊で、これについて次のように評している。

 

 ポワポワ、キューウン、パチン……といったユーモラスな効果音を背景に、小さな四角形が大きな円形をかじっていく。ヒヨコが電車にばけたり、三角、四角、丸、線など単純にデザイン化されたチョウチョウ、宇宙船、自動車が目まぐるしく変化する奇妙なアニメのコーナーNHKテレビ朝の「おかあさんといっしょ うたのえほん」(月ー土曜10時5分)に登場して、ちっちゃなこどもの人気を集めている。

 このアニメーション、2分半、説明もないからこどもに"正確"に理解させたいと思うお母さんは困って「あれはなんですか」。はては「図形が変化しますが目が悪くなりませんか」との問合せなど、ひところしきりだったが、ようやく近ごろ「なんだか坊やも楽しんでいるようです」「ウーとかキーとか熱中してます」との投書がたくさん寄せられるようになってきた。

(中略)

 ことばやストーリーの助けをかりずに幼児の心をとらえるにはどうしたらいいか、そして造形感覚や空想力、創造力を育てるには――。意味はわからずともこどもはコマーシャルなどけっこうみているのは、短時間に注意をひこうと凝縮した広告の動き、音、色にひかれるからで「この形と動きと音を意識的に構成してみようと考えた」とスタッフはいう。

(中略)

 作品は①反復すること②単純な造形の組合せに興味をもつように③アクションの変化で注意をひくことなどが共通テーマになっている。

 

「幼児に人気 奇妙なアニメ NHKテレビ おかあさんといっしょ」、『朝日新聞』、1970年3月3日付夕刊、p9。

 

 『おかあさんといっしょ』で放送された「ポワポワ、キューウン、パチン……」、「小さな四角形が大きな円形をかじっていく」、ストーリーすらない意味不明なアニメーションは、開始当時「奇妙」であるという認識だったようだ。

 例えばディズニー作品や『トムとジェリー』のような子供を対象にした当時のアニメーションは、台詞を極力減らして動きを中心に演出していたが、「ジェリーがトムを打ちのめす」という最低限のストーリーは存在した。したがって、当時のアニメーションは、子どもにストーリーを「正確」に理解させることが求められた。

 ただ、小学生や幼稚園児などある程度の年齢になれば理解が及ぶが、それより低い年齢の子どもたち、すなわちおかあさんといっしょ』が対象としている年齢の子どもたちは、なかなかストーリを正確に読み取るのは難しいのである*5

 彼らを対象としたアニメーションを制作するために、NHK民間放送のコマーシャルをヒントにした。コマーシャルにはストーリーがなく、ただ視聴者に短時間で商品を記憶してもらうことのみを目的にしている。そのために、前述の「点滅手法」を含めた「動き、音、色」を駆使して強烈なインパクトを残す必要がある。それによって、特に子どもは意味が分からずともテレビに釘付けになるのである。

 NHKはコマーシャルの持つ効果に注目して、「①反復すること②単純な造形の組合せに興味をもつように③アクションの変化で注意をひくこと」を制作する上での共通テーマとした。おかあさんといっしょ』のアニメーションは正解をあえて明確に示さず、解釈を視聴する子どもたちに委ねたのだ。子どもたちには、「円形」が遊園地の「風船」に見えるかもしれないし、おやつに食べた「ビスケット」に見えるかもしれない。これに正解はなく、図形が何に見えるかはすべて彼らの創造力次第である。

 このような意味をもたないアニメーションは、大人たちからみれば見慣れないものであったが、当時の子どもたちに人気を博したことで、現在にまで受け継がれていった。

 現代では当たり前になった幼児向けのアニメーション。これはコマーシャルを手がかりに制作され、当時はかなり斬新なものであったのである。

 

おわりに

 アニメーションの地位向上はコマーシャルで使用されことが原因である一方、コマーシャルの性質上、「点滅手法」など強烈なアニメーションを制作するようになった。これに対して、久里洋二氏は『朝日新聞』において懸念を表した。

 コマーシャルをヒントに、NHKは『おかあさんといっしょ』で幼児向けのアニメーションを制作した。この意味を持たないアニメーションに、『朝日新聞』は「奇妙」と評した。

 前編では、アニメーションを新しく利用した既存のメディアを中心に考察した。後編は、『鉄腕アトム』や『サザエさん』など黎明期の作品に焦点を当てようと考える。

 超個人的な話になるが、子どもの頃に見た、キューピーの「た~らこ~ た~らこ~ たっぷり~た~らこ♪」のCMが妙に記憶にある。不安定な曲をバックに、大量のたらこが一斉にこっちに向かってくる…。トラウマだけど、子どもながらに病みつきという感覚を覚えた…。あとは、タケモトピアノとか…

出典:https://www.oricon.co.jp/special/55048/

(追記)

 あとは、「おかあさんといっしょ」で放送された「地球ネコ」がものすごくトラウマだった……。普段のお姉さんお兄さんとは違う歌声、無機質ながらリアルな作画、途中の動物の写真が急にドアップに……。この曲が流れた瞬間に猛ダッシュで逃げた記憶が未だにこびりついている。当時はこれが平沢進作詞作曲だとはもちろん知らず、後に『妄想代理人』で再会することなるとは……。


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参考文献

●『朝日新聞

難波功士「戦後広告史に関する諸問題―画期としての1951年」、(『関西学院大学社会学部紀要』第90号、2001年)https://www.kwansei.ac.jp/cms/kwansei/pdf/department/sociology/5297_44459_ref.pdf

NHK放送史 https://www2.nhk.or.jp/archives/bangumi/

 

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